マンションの自治会の役員は輪番制になっていて、今年は僕の住む3階が当番である。
日曜日に自治会の総会が開催され、その場で僕が理事長に選任された。
選任といっても、マンションの管理会社のひとが、3階の住人に順番にいかがですかと聞いていくだけのことである。
他の方は巧みに辞退をしていたが、具体的に断る理由を用意してなかった僕が、「ほかにいらっしゃらないなら、まあ」という消極的な形で決まった。
それにしても
「理事長」である。
会社の課長とか部長というのは、組織のなかの機能でしかないのだが、理事長という役職にはなにか格別の重みを感じる。北の湖理事長とか。
地元の「顔役」とか「長老」という印象もある。
そう考えると、自分もとうとうここまで成り上がったか、という晴れがましい気分がないわけでもない。
地元の飲み屋でツケで飲めたりしないかな、などとさもしいことを考える。
さっそく、なにか住人同士の揉めごとでも起きないだろうか。
揉めにもめたあげく理事長決裁を仰がれて、
「なるほどなるほどそうですかそうですか。どなたさんの言い分もわかりますわかりますよーくわかりますうんうん。どなたさんも言ってることも間違っておりませんはい。そうです正解です正しいですだーれも間違っていません。ひとはうまれたときはみな平等だったのです。そもそも一神教という概念が生まれるまでは正も不正もなかったのです。ものごとは多面的弁証法的に見ないといけません。ということで弁護士へ相談してみましょう」
などと発言してみたい。
前任の理事長からの引継ぎのときに、実際どんな仕事がありますかと聞いてみたら、年1回の総会議事録の署名捺印をする以外には、何もなかったそうだ。